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(私どうしちゃったんだろう。黒川さんは雇い主で、3つも年下なのに、こんな・・・こんな恋してるみたいな反応しちゃうなんて)
なんだか、太一に悪いことをしているようで、私は少し混乱した。
(駄目だよ、人の温もりが恋しくて、勘違いしちゃってるだけなんだから。それ以上の意味なんてないんだからね。しっかりして)
それからは、邪念を打ち払うように仕事にうちこんだ。
「お疲れ様でした。希望時間の5時になりましたよ」
私はちょうどお会計を終えたタイミングで黒川さんが声をかけてくれる。
「あ、ほんとだ、楽しかったから時間を忘れていました。」
私は心からの笑顔で微笑んだ。
すると、黒川さんはまぶしい物をみるような目で私をみつめ、
泣きそうな顔で笑って
「よかった」
そう呟いた。
「何がよかったんですか?」
私は不思議に思って問い返すと、「いえ、なんでも」
そう言葉を濁されてしまった。
帰り道、包んでもらったナデシコの花を抱えて、
鼻歌を歌った。
(こんなに充実したのはいつぶりかなあ。明日からも仕事、楽しみ)
行く道はほのかに夕闇に包まれ始めていたが、私の心は明るかった。
これから始まる日々に思いをはせて、家路についたのだった。
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