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「俺はあなたの恋人になりたい」
まっすぐな目。冗談を言っていないのが、その目をみてわかってしまった。
(だって、私は夫がいて、黒川さんは年下で、上司で)
このまま進んではいけない理由ばかりが浮かんでくる。
まるで警告するみたいに。
「だめだよ。貴方は私より若くて、貴方のことをすいてくれてる人もいる。私は結婚していて、もうおばさんだし・・・」
「貴方が幸せだったらよかったんだ・・・だったら諦めるつもりだったのに」
「え?」
「再会したとき、俺はすごく嬉しかったんだ。好きだった貴方がまだ幸せに生活しているって分かって、でもちがった」
黒川さんは拳をぎゅっとにぎり、続けた。
「貴方が花束を買って帰った日、メッセージカードを入れ忘れたことに気がついて、
会員証の住所に届けにいったんだ。
そうしたら、どしゃぶりの雨のなか、花束を捨てているあなたを見つけた。
それを見てすぐに確信した。あながた幸せではないということを」
覚えている。あの日は急な豪雨がよるから降り出したのだ。
私は太一からのメールを見て、悲しくなって、
衝動的に花束をつかむと裸足でゴミ捨て場まで駆け出し、そして捨てたのだ。花束を。
(見られていたなんて)
私は呆然としたあと、
ずっとひとりで抱えていた苦しみが溢れてきて、涙が止まらなかった。
「助けて・・・黒川さん・・・」
黒川さんは私をぎゅうと抱きしめてくれた。
私はその胸にすがって泣き続けたのだった。
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