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私は身だしなみを整えて、綺麗に化粧をした。
午前9字45分
これから家を出れば、近くのショッピングモールが開店する時間なのだ
「家にいても息がつまるもの。外に出た方が気が紛れるよね」
そう独りごちてパンプスを履いて家をでる。
つい数日前まで暑かったのに、今日は一転して秋の気候。
半袖では寒いから長袖を着て街を行く。
「急にさむくなったな、もう秋かあ」
信号待ちの時間に見上げると綺麗な青空にいわしぐも。
「ふふ、社会の教科書みたい」
「ああ、本当だ」
ビックリして隣をみると、いつの間にか青年が立っていた。
その人は身長180センチは超えていそうな長身で、
筋肉質な身体、黒いさらさらの髪、鼻筋が通って切れ長な目をしており、
とても綺麗な青年だった。
「えっと・・・どこかでお会いしましたっけ?」
「ああ、突然すみません。覚えていらっしゃいませんか?この先のショッピングモールの花屋で働いています。」
そう言うと青年は花の模様の入った綺麗な名刺を渡してきた。
「黒川 優・・・さん?私は美咲 舞花です」
ふわりと、柔らかく青年は微笑む。
「貴方は舞花さんっていうんですね、この前、俺の作った花束をお買い上げいただいてありがとうございました」
(花束か・・・結局無駄になってしまったけど)
2週間前の結婚記念日、私は奮発して大きめの花束を抱えて家に帰った。
テーブルに花を飾り、ご馳走をセッティングし終わった後に、太一から
「今日は遅くなる。食事はいらない」
そうメールが入ったのだ。
「花束、気に入っていただけて嬉しかったから。一方的に覚えていたんです。突然すみませんでした」
そう言って青年は紺色のハンカチを私に握らせると、
青信号とともに歩去っていった。
私は進むことを忘れて空を見上げる。
そうしないと、溢れた涙がこぼれてしまいそうだったから。
「秋だあ・・・」
私は黒川さんが渡してくれたハンカチを目に当てて
子供みたいに泣きじゃくった。
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