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しみわたる
優の部屋は男の一人暮らしにしては片付けが行き届き、
窓際のラックには所狭しと様々な鉢植えが並んでいた。
「わあ。こんなに沢山だと、お世話が大変じゃない?」
私は綺麗に手入れされた鉢植えたちを見ながら優に問いかけた。
「案外簡単だよ。こつさえ覚えたら、そんなに時間がかからない。
店で売れ残った鉢植えを見ると、どうしても放っておけなくて、
つい連れて帰ってしまうんだ」
照れ笑いをしてベランダの扉を開くと、とこはちょっとしたジャングルのようになっていた。
「・・・これは、すごいね。はやりのベランダガーデニングっていうやつかなあ?」
脚の踏み場もないほどあふれかえる鉢植えたち。
「抱え込みすぎなのは分かっているけど、どうしても、置いておけなかったんだ」
後ろから私を抱きすくめ、首元にキスをおとす。
「私もこの鉢植えたちの仲間入りしたんだね」
ふふと笑ってからかうと、優は抱きしめる力をつよめて
「そうだね」
と呟いた。
「コーヒーをいれるからちょっと待ってて」
離れていくのが寂しくて、私はとっさに優の腕をつかんだ。
その手を優は優しく撫でてくれる。
「怖くないよ、すぐ戻るから」
そう言って離れていく。
(寒い。一人が寒いなんて、忘れていたよ)
私は寒がりな心を温めるように、優が握ってくれていた手をぎゅうっとにぎりしめた。
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