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「ああ、涙でぐしゃぐしゃ、このままじゃどうしようもないから、モールのトイレで直さなきゃ」
私はショッピングモールの一番近いトイレに入ると、メイク用のドレッサーに座った。
ここのモールの売りのひとつ、リビングのようなトイレは
広すぎる空間の中央にシャンデリアが輝き、それをぐるりと囲むように
くもりひとつなく磨かれた鏡、クッション性抜群の赤いチェアが並んでいた。
そこで女性がリラックスしてメイクを直したり、休憩することが出来るということで、
女性客の利用が多い場所なのだ。
「ええっと、一度メイクを落として、コンシーラーとファンデ、ビューラーであげてからマスカラをして眉ペンで眉を書き足して、仕上げはアイシャドウ・・・」
一度化粧を落として順番にメイクをしていく。
「よし!完成」
私は綺麗にメイクし直した自分の顔を入念にチェックする。
沢山泣いて目が少し赤いけど、幸い腫れてはいなかった。
「これなら大丈夫かな、今日は何を見よう」
私はゆっくり立ち上がってスカートのしわを伸ばしてからショッピングモールの通路にでた。
白くてキラキラ光る店内。その一角に私が以前利用した花屋があった。
「あ・・・これのお礼した方がいいかな」
私は花屋とは逆の方向に歩き出した。こちらに雰囲気の良い紳士服屋があるのを知っていたから。
(本当は太一になにか贈りたくて、見つけたお店なんだけどな)
初めての利用で別の男性に贈る物を選ぶことになるなんて。
(これじゃどっちもどっちじゃない)
私以外の女を優先する太一を心の中で非難していた私が、初めて会った男性のために、太一に贈り物をするためにチェックしていたお店でプレゼントを買うなんて。
(ああ・・・どうしてこうなっちゃんたんだろう)
ふうとため息をついて、重い気持ちのまま店に入った。
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