とける

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外は寒い秋風が吹いていた。 優のアパートから最寄り駅までの道のり、私達は普通の恋人みたいに手をつないで歩いた。 会話を交わすことはなかった。 ただしずかに、歩いていたかったから。 そうすることで、私と優の二人の世界が守れる気がしたから。 「俺はここまで」 そう言うと優は踏切で立ち止まって私の背中をそっとおした。 「舞花・・・」 優は優しく微笑んで 「行って」 そう一言だけいうとその場に立ち尽くした。 私は踏切を渡り終わった時に振り返ると、優は微笑んで手を振ってくれた。 私も笑って手をふった。 こうしていたら普通の恋人みたいなのに。 実際は違う。私は優を巻き込んでしまった。 私がもっと強ければ、彼の気持ちを拒否して、もっと幸せな道を歩ませてあげられたのに。 「だめだな・・・私。でも。優のこと好きになりかけてる。本当に駄目だ」 駅のホームをくぐり、電車に乗り込み車窓を見ていると、 踏切にはまだ優が立っていた。 私に気がついて手を振る優。 私はそっと振り替えし、窓ガラスにおでこをあてた。 熱を冷やさないと、溺れてしまう。 私は身体に残る優の熱を確かめるようにお腹に手を当てた。
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