293人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
食事を終え、食器を片付けている時だった。
ガチャリ
扉の開く音がしたかと思うと、太一が戸口に立っていた。
「え・・・今日も遅くなるって、朝言っていたよね?どうしたの?」
私は緊張でのどがからからになってうまくしゃべれなかった。
「仕事が早く片付いたから。久しぶりに家でゆっくりしたくてね。舞花、なにか食べるものある?」
太一はそう言いながらネクタイを緩めて私を抱きしめた。
「今つくる。簡単な物しかできないけど、いい?」
「もちろん。舞花は料理が上手だから楽しみにしているよ」
太一は優しく微笑んで言った。
私は抱きしめられた腕からそっと抜け出して料理を作り始めたが、触れられたところが不快で落ち着かなかった。
(優に抱きしめられたときはあんなに心地良かったのに。どうして太一だとこんなに気持ちがしずんでしまうんだろう。普通、逆だよね)
太一にあんなに触れてほしいと思っていたのに、優の熱をしってしまったから、太一の熱はもう受け入れることができなくなってしまったのか。
「舞花、今日は一緒にねようか」
太一は珍しくそう言うが、私はどうしても太一と肌を合わせる気になれなかった。
「今日は調子が良くないの。一人で寝たいから、ごめん」
そう言って、手早く料理を作り続けた。
最初のコメントを投稿しよう!