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「いらっしゃいませ、ごゆっくりご覧下さい」
若い女性、栗毛に肩までの髪をカールさせ、目はぱっちりの二重、唇もぽってりしていて可愛い。服装も淡いピンクのワンピースを嫌みなく着こなしている。
(黒川さんはこんな人と一緒に働いているのかあ)
特別な意味なんてないのに、持っていたプレゼントを渡すのが急にはずかしくなった。
だって私は結婚してから太一の希望で黒い色、胸までの長さのストレートヘア。コンタクトも禁止されたからめがねをかけている。
服装も太一の希望で、茶色や黒、カーキといった落ち着いた色しか着ることを許されていない。
(ああ・・・なんて地味なんだろう、嫌になっちゃう)
私は持ってきたプレゼントを後ろ手に隠して、並んだ花を見始めた。
店内はバラやかすみそう、みたことのない変わった花までいろいろな花で埋め尽くされていた。
その中には鉢植えの花もあり、とても可愛い。
「あ、これ」
その中で私の目にとまったのは、ピンクの繊細な花だった。
「ナデシコ・・・花びらが可愛いな、育てやすくて丈夫、私でも育てられるかな?」
「ああ、それなら美咲さんでも育てられると思います」
突然黒川の声が響いてきて驚いた。
振り返るとそこには、ブラウンのエプロンを着た黒川が花を両手いっぱいにかかえて立っていた。
「驚いた・・・ここの店員って本当だったんですね」
「はは、名刺、みたでしょう?お花を探しにいらしたんですか?」
「それもあるけど・・・これ」
私は思いきって包みを差し出す。
黒川さんは最初少し目を見開いて驚いたけど、
ふっと笑ってくれた。
「嬉しいけど、ちょっとまって、この花いけてくるから。」
「あ、ごめんね、気が利かなくて、受付のお姉さんに預けるから後でうけとって」
「だめ、ちょっとだけだから、まって。美咲さんから直接受け取りたい。」
黒川はそう言うと急いで花をバケツにいけはじめた。
私は少し手持ち無沙汰になって周りの花を見始めた。
ミニバラの小鉢にミニ盆栽、いろいろな可愛い花々が並んでいる。
(でもやっぱりさっきのナデシコが気になるな)
私はもう一度ナデシコの鉢植えを見た。
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