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「ごめん。出しちゃった。今綺麗にする」
「いいの。優のものだもの嬉しいよ」
私は優が綺麗に丁寧にブラウスのボタンを留めてくれるのを眺めていた。
長い指で器用にボタンを留めていく。これがすべて元通りになったらまた日常に戻るのだ。
黒川優と美咲舞花として仕事をして、別の家に帰る。
「さびしい」
ぽつりと呟くと優は優しく私に触れるだけのキスをしてくれた。
「おれも寂しいよ。でも。今は我慢する。いつか優が俺を選んでくれる日がくるまで」
(選びたい。いますぐにでも。でも、それは難しい)
私はまだ生活力がないのだ。バイトも始めたばかりで貯金もない。
自立して生きられるようになったら。その時は、優のもとに飛び込んでいけるのに。
「優、私自立するよ。そうしたら、夫とは離婚して、あなたと一緒になる」
そういうと優は強く抱きしめてくれた。
「嬉しいよ。でも、無理しないで。俺も応援するから」
事務所に入って28分。
あと2分だけこうして抱きしめ合っていよう。
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