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砂のお城
私達は乱れた服を直して、先に優が事務所を出て、少したってから私が事務所をでた。
藤中さんはそんな私をきつくにらんでいたが、
優がそばにいたから何も言わなかった。
気まずい雰囲気のなか、もうすぐ仕事が終わるという時だった。
「舞花、本当に仕事していたんだね」
太一が花屋に入ってきたのだ。
「太一!どうしてここに?」
「舞花が仕事しているところを確認したかったんだよ。それに一緒に帰りたかったからね」
太一はらしくないことを言って優と藤中さんの方に歩いて行くと、笑顔で自己紹介をした。
「初めまして、舞花の夫の太一といいます。妻がお世話になっているようで、ありがとうございます。」
藤中さんはむすっとして聞こえないふりをして事務所に入ってしまった。
残された優はぎこちない微笑みをうかべて
「いえ、こちらも助かっているんです。美咲さんは仕事の手際もいいですし、花もお好きなようなので、商品の扱いも丁寧で、今後が楽しみな逸材なんです」
優は手放しに私をほめた。
「そうですか。家にいるときはなにかと失敗ばかりだから、ちゃんとやっていけるか心配していましたが、それなら大丈夫そうですね。今後も妻をよろしくお願いします。」
「いえ・・・・こちらこそ」
優から笑顔が消える。
(真正面から妻なんて言われたからきっと腹をたてているのね)
私は生きた心地がしなかった。
優に申し訳ないという気持ち、太一への罪悪感。
(でも、乗り越えようと決めたんだから、こんなことくらいでくじけない)
「ところで、妻はまだ仕事上がりではないですか?できれば一緒に家に帰りたいのですが」
「ああ・・・そうですね、もう上がっていいから、片付けしておいで」
優の声には元気がなくなっていた。
(優ごめんなさい)
心の中で謝罪して、私は片付けをして身だしなみを整え、太一の元にむかった。
「太一、お待たせ。黒川さん、また明日、よろしくお願いします」
「お待ちしています。美咲さん」
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