セックスレス

7/10

293人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
「話は変わりますけど、美咲さん、今時間がありますか?」 「時間ですか?」 「ええ、実はよくお見かけしたので、もしかしたら、時間を潰しにこのモールに来ているかと思って、違いますか?」 「そうですけど、何か?」 私はちょっとむっとした。 世の中には子供のいない専業主婦をニートだなんだと非難する声があるのをしっていたから。 (ちょっとガッカリ。黒川さんはそんなこと考える人じゃないって思っていたのに。) 私は軽い失望で今までの楽しい気持ちが一気にしぼんでしまった。 「じゃあ、渡しましたしこれで」 そう言って店を出ようとしたときだった。 「まって、違うんです。ここで働きませんか?」 黒川さんが私の手首をつかんで引き留めながらそう告げた。 「私が、ここで?」 「ええ。今アルバイトで働いてくれる人を探しているんです。それで、美咲さんは花にも興味がありそうだから、どうかなと思って」 (私が働く?) 考えてもみなかった。 寿退社してから3年。私はすっかり労働から遠ざかっていたから。 (でも、やってみたいかも。私も働いて、時間を有効に使えるようになったら、太一との関係もよくなるかもしれない) 「いつからですか?」 「すぐにでも、せっかくですから、いまから面接していきませんか?」 「履歴書とか、なくてもいいんでしょうか?」 「うちは人柄優先なので、履歴書は後日で大丈夫です」 黒川さんは親切だ。花も嫌いじゃない。 こんなチャンスはきっとこの先ないだろう。 「分かりました。いまから面接をお願いします」 私は決めた。一歩前に踏み出すことを。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

293人が本棚に入れています
本棚に追加