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「さがしたよ」
抑揚のない声なのに、顔は穏やかそうな微笑みを浮かべている太一。
そのちぐはぐさで恐怖がわきあがった。
「ひっ・・・はなして・・・かえりたくない」
「いいこだから、君は心を病んでしまったから、出歩いてはいけないとあれほど言い聞かせただろう?」
太一は周囲の人に聞こえるように大きめの声で私をたしなめる。
「いや、いやよいや!!私は一人の人間なの。あなたの天使にはなれない」
私は精一杯抵抗するが、太一の力には叶わない。少しずつ、ショッピングモールから離されていく。
私はここで負けてしまったら一生あの鳥籠(ろうや)に閉じ込められてしまうという恐怖から、太一の腕に力一杯かみついた。
「っつ!!何するんだ」
太一は私を開いている方の手で殴り飛ばした。
(手がはなれた!!)
殴りつけられた頬はジクジクと痛むけれど、この好機を逃すわけにはいかない
私はその隙に鞄をしっかり握りしめて全速力で花屋に走った。
(優、優・・・会いたい)
ただそれだけで、後のことは考えられなかった。
ただ、優に会いたかった。
後ろからは太一が追ってきている。
少しでも速度を落とせば捕まってしまうだろう。
目の前にようやく花屋が見えてきた。
(あと数歩先。)
だけど、無情にも太一に追いつかれて地面に押しつけられてしまった。
「いい加減にしろ!お前は一人では生きていけないんだよ。俺の天使!いいこだから家に帰ろう」
「嫌よ!私は貴方の天使じゃない!私は人間なの、一人の人間なの」
なんとか腕から抜け出そうとする度に強くなる力。
腕も折れる寸前までねじ曲げられ、痛みに涙がでた。
「何の騒ぎですか?」
その時だ。懐かしい声が響いてきた。
「優・・・」
「舞花!?」
私達は同時に名前を呼び合った。
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