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「こちらに」
そう言って進められたのは、狭い控え室のパイプ椅子。
ともすれば机の下の脚が触れてしまう距離感
私は久々の面接で緊張していたから、時折触れる脚には気が回らなかった。
「では、前は経理をされていたんですね。助かります。帳簿付けたり出来る人、ほしかったから」
黒川さんは長くてごつごつした指で契約書と簡単に職歴を書いた紙をめくる。
(綺麗な手・・・男の人って感じがする。太一は内勤だからすべすべして大きさもそんなに大きくないから新鮮だな)
私は狭い空間で入ってくる情報が黒川さんだけだったから、ついつい観察してしまった。
黒いさらさらの髪は、下を向くとながれてしまうようで、ながれた髪を指ですく仕草が素敵だった。
(私も・・・ああして髪をすいてもらいたい。でも太一は私にふれなくなってもう2年だからきっと一生ないんだろうけど)
太一のことは嫌いじゃない。だけどこうしたふとした瞬間にどうしようもなく苦しくなるのだ。
(だめだめ、今は面接に集中!これが新しい一歩になって、何かがかわるかもしれないんだから)
私はそうっと、黒川さんの顔色をうかがって
「どうでしょうか?」とたずねた。
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