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「何してるんだ。痛がっているじゃないか」
優は走ってくると、太一を引き剥がして私を抱きしめてくれた。
優は暖かくていい匂いで、私はようやく落ち着いて泣くことができた。
「俺の天使にさわるな!お前みたいな穢れがあるから家で育てることにしたのに、これじゃあだいなしだ!!」
太一は優より体格が一回りくらい小さいから、力では適わないと判断したのか、大声でわめきはじめた。
「彼女、裸足じゃないですか。一体なにがあったんですか?」
優は冷静に太一に問いかける。
「うるさい、俺は舞花にしか興味がないんだ。舞花がいれば他に何もいらないんだ。なのに、お前が舞花を悪い道に引き込んで、変えてしまった」
確かに私は優と出会って変った。
今までは自己をもたずにただ空気をすっているだけの抜け殻だったのに、優と出会えて、殻に夢や希望が詰まって、私になれたのだ。
「太一は間違っている。私は今までただ貴方の帰りを待つだけの日々を送っていたけど、ずっとずっと空虚だった。それが優に出会ってかわったの。毎日が楽しくなった。生きることに一生懸命になれたの。貴方は私から奪うばかりだったけど、優は私に沢山のものを与えてくれた」
私は思いの丈を太一にぶつけた。
太一はまだ言い足りないようだったけど、周りに人が集まってきたのをみて冷静になったようで、深呼吸をして私に手を伸ばした。
「優、家に帰ろう。君が帰る家は一つだけなんだよ」
すると今まで黙っていた優が私を抱きしめて言った。
「舞花はこれから俺と暮らします。まだ正式に離婚したわけじゃないけど、貴方のしたことを記録に残せば、協議離婚できるはずだから。絶対にあなたの元にはかえさない」
そう言うと、優は私を抱き上げて、
全速力で走り始めた。
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