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優は自宅に帰るとトランクに着替えや貴重品を詰め始めた。
私はその間に汚れた足を洗わせてもらう。
シャワーで足を流すと細かい傷が痛んだ。
(私の足、ぼろぼろだわ)
なんだか急にみじめになって涙があふれてきた。
自分が助かるために大切な優の未来を奪ってしまった。
それがたまらなく苦しくて、同時に嬉しかった。
「舞花、準備ができたから、出るよ。ここも知られるのは時間の問題だから、急がないと」
そう言うと、優は私のぬれた足を丁寧に拭ってくれた。
「靴は、ちょっと大きいけど俺のサンダルを履いて、途中で靴を買おう」
「ありがとう・・・」
「それから、北海道は冷えるから、俺のパーカーを羽織って」
「うん・・・楽しみだね、北海道」
二人そろって家を出て、近くの駅まで歩く。二人とも目深にキャップをかぶり、駅の改札をくぐる。
飛行機での移動も考えたけれど、今後の生活費や、もし見つかった際に逃走する余地のある電車の方がいいだろうと言うことで、東京駅からはやぶさに乗って移動することにしたのだ。
「優・・・仕事はどうするの?」
「藤中さんに事情は告げずにやめることを伝えてある。」
「え・・・いつの間に?」
「優がシャワーを浴びているあいだにね、藤中さんすごく動揺しているようだったけど、分かったって言ってくれた。大丈夫、代わりの人材はいくらでもいるから。」
私のために優も藤中さんも巻き込んで迷惑をかけて、私は自己嫌悪に陥ったが、優は私の頬を撫でて、笑ってくれた。
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