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「人が見ているよ、舞花」
優が私を諭した。
夢中になっていて気がつかなかったが、周りにはまだちらほらと人が乗っていたのだ。
急に羞恥が襲ってきて私は耳まで熱くなった。手も赤くなっているからきっと今の私はユデダコのようになっているだろう。
「かわいい。もうすぐホテルにつくから、そうしたら、ね?」
優しくそう言うと、私の手をしっかり握って落ち着かせてくれた時に、ガタンと電車が止まる。今日の宿のある駅についたのだ。
私と優は手をつないで電車を降りると、明るい駅内を歩いて改札をくぐり、夜闇が広がる街にくりだした。
しばらくは無言で歩いていると、今日泊まるホテルが見えてきた。
東京でよく見かけるような清潔な外観のビジネスホテルとは違い、少しくすんだ外観の小さな民宿のようなホテルだった。
扉も自動ドアではなく手開きで、カウンターには呼び出し用のベルが一つ置いてある。それをりんとならすと、「はいは~い」と人のよさそうな声音の女性がカウンターに出てきてくれた。
「今日お泊まりの方ですよね?お名前をこちらにお願いします。」
優はさらさらと名前を書いているが、それは偽名で、私は少し驚いた。
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