二人の道

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部屋の奥には浴衣が置いてあったため、順番にシャワーを浴びることになった。 本当は一緒に入りたかったのだが、狭くて無理だねと二人で笑い合い、順番に入ることに決めたのだった。 「優が先に入っている間に、携帯のチェックしようかな」 長らく放置していた携帯を見ると、太一からの着信やメールで埋め尽くされている。中身を見る気もおきず、メールは一括削除して、着信拒否、メールの受信拒否設定をした。 「はあ、新しい携帯を買わないと。この携帯では落ち着いて新しい生活ができない」 私は駅の構内で購入した北海道の観光ガイドブックを開く。 そこには一面にひろがる広い大地が映し出されている。今はラベンダーの季節は終わり、紅葉にもまだはやい。そのため、人も少なそうなのが嬉しかった。 「まずは仕事だよね、身分証がなくても出来る仕事ってあるのかしら」 私が持っている身分証で使えそうな者はマイナンバーカードだけだった。これは恐らく住所変更手続きをすれば、継続して使える。問題なのは保険証。扶養に入っているから太一の名義のものしかないので、万が一病院にかかる事態になれば、高額の医療費を支払わなくてはいけないのが気が重かった。 「今まで以上に体調管理しっかりしないとね」 私はこんな状況だからこそ、せめてポジティブに考えようと気持ちを切り替える。そうしてしばらく整理をしていると、優がお風呂から出てきた。 「お待たせ、次どうぞ」 そう言うとぬれた髪をそのままに私の横に腰掛けたので、ドライヤーを持ってきて優の髪を乾かしてあげることにした。 ブオオと暖かい風が優の髪にあたると、気持ちよさそうに目を閉じて、大人しく髪を乾かしてもらう姿が大型犬のようでとても可愛くて、私はウキウキした気持ちで髪を乾かし続けた。 「じゃあお風呂に入ってくるね」 私はコンビニでかったお風呂セットを持ってお風呂場に入り、熱いシャワーを浴びる。思っていた以上に疲労していたようで、その温もりが疲れた身体にしみてきて心地良かった。 (これからどうなるんだろう。不安も大きいけど、きっと、うまくいくよね) 不安を打ち消すように私はシャワーにうたれつづけた。
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