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「あのパーティーに入るために、どれだけの努力をしてきたことか。
ガキの頃から常に剣術の道場に通って腕を磨いたし、魔法だって習いに魔法学院に通ったこともある。
盗賊とかレンジャーの、色んな冒険技術を覚えてさ。
苦心して、やっと入れたパーティーだったんだ」
静かな微笑をたたえたまま、酒場のマスターは俺の話を聞いていた。
「お前さんには、合わなかった。それだけだろ」
「冒険者の頂点に立ってみたかった。
どんな景色がするんだろうって。どんな高揚感があるんだろうって。
最強になりたい。男なら誰だって思うよな?」
「そうだな、ウェイド」
「ガキみたいに惚れて、ガキみたいに夢見てた。
それが、一ヶ月で潰えちまった。
なぁ、夢を失って、どうやって生きていけばいいんだ、マスター?」
蜂蜜酒を一気にあおって、俺はカウンターの上にジョッキをドン! と置いた。
マスターはこう言った。
「……人は誰しも、生まれ持った才能で、生きるステージが定められているのだそうだ。
ああいうトップの世界を生きることができるヤツは、ほんの一握りだ。
それ以下の人間はみんな、社会の歯車として働くしかない。
冒険者だってそうだろう」
「分かってる。分かってるけどさぁ……」
ジョッキを持つ手が震える。
もう諦めたはずだった。
決別したはずだったのに。
最強のパーティーで、誰からも憧れられる冒険者になることを。
なのに、なんでこんなに心がかきむしられるんだろう?
俺は……未だ、夢見るガキなんだろうか……?
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