第1話:追放

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「今日は挨拶代わりだったから、私がウェイドの酒代を払って帰ろうかと思ったけど、マスターのおごりならいいよね。  また明日、同じ時間にここに来るね。その時、良い返事だけ聞かせて」 「おい……」  それじゃ、と、俺の言う言葉も無視して、ミレニスはローブを翻して去って行った。 「なんなんだ、あいつ……」 「お前もやっとモテ始めたな」  マスターがくつくつと笑って、言った。 「黙ってろ、ハゲ」 「ハゲじゃねえ!?」 「ん? なんだこれ……」  ミレニスが座っていたテーブル席を見ると、忘れ物かペンダントらしきものが置かれてあった。 「ペンダント……? マジックアイテムか、これ」  手に取ると、ルビーの宝石が赤く輝く、魔法のペンダントだった。 「仕方ない……明日来るんなら届けてやるか……」  と、魔法のペンダントを持ち帰ろうとしたところで、それが強く激しく輝き出す。 「な、なんだ!?」  そのペンダントの輝きに呼応して、俺は本当の自分を思い出すことになる。  様々な情景が頭の中に流れ込んできた。  今より1000年も昔の、古代の時代に、ウェイドという俺が生きていたこと。  俺はその時代に、最強の魔導師だったらしきこと。  信頼できる仲間とパーティーを組んで、最難関ダンジョン・天帝の塔を最後までクリアした経験すらあった。  そうだ……思い出した。俺はたしかに、あのダンジョンを最後まで攻略したはずだった。  そしてそのクリアボーナスとして、破格の性能を持つ古代魔法と古代スキルを取得していた。 「古代魔法……」  すべての取得魔法を思い出して、古代魔法を使おうと思うと、使える感触がたしかにあった。  今ここで古代魔法を使うと酒場が壊れるからやめておくが。  でも、たしかに俺は、古代魔法が使える。  それは、現代の退化した魔法やスキルを遙かに凌駕りょうがする性能だ。  古代魔法に比べれば、現代の魔法はゴミ同然だ。  これがあれば、俺はまた『ソウルブレイズ』に戻れるのではないか……?  すべての戦闘技術と知識を引き継いだまま、俺は現代に転生したのだった。  しかし、なんで今になって、そんなことを急に思い出すのだろうか。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加