『 あ っ ぷ っ ぷ 』

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朝だ、憂鬱な朝だ 自転車通のヤツらがトボトボ歩く僕らを追い抜く そういや昨日、父さんには「天ちゃんによろしく言っておいてくれ」と言われた そして慶太のヤツも隣でよろしく言わなきゃと構えている 「なぁ泉、ボク、烏丸をSF研究部に誘おうと思ってるんだ。同じ部活に入ればこう・・・ホラ、仲直りだ」 正気かコイツ 女の子にSF研究?僕らみたいなオタクと一緒にされたい訳ないだろう!! いや、天狗の子なら意外とそういう趣味もアリなのか? いやいやいや!!! 「ホラこれ、『黄金仮面』単行本全部持ってきたんだ!コレを貸してあげようと思って!ボクのとっておきのお宝さ!」 「慶太、素なのかそれ、お前、それ、素なのか、」 というか今日、烏丸が来るかどうかすら不安だ 慶太のせいで転校早々不登校なんて事になったら・・・ 偶然父親が知り合いで慶太とも仲が良い僕になんの飛び火もないワケがない! クラスでは既に「オタクの慶太が何か言ったせいで転校生は泣いて帰った」という事になっている まぁ来たとしてもだ、また変な事になってドコかへ飛ぶかもしれない そう、天狗はホントに「飛ぶ」らしい 昨日ネットで色々調べたんだ 「飛ぶ」というコトは、鳥のように「空を飛ぶ」というコトとは違うらしい 実際には人界(じんかい)と零界(ぜろかい)のハザマの世界に入り込む、それが天狗にとって「飛ぶ」というコトらしい ハザマの世界は人界と似た姿をしているけれど、物理法則が違う 移動する距離や経過する時間、目で見える範囲、身体の重さ、などなど全てがこの人界とは違うんだ 天狗が飛べる時間は30分が限界らしいけど、それだけあれば急行電車に乗っているくらい遠くへ行けるらしい つまり、昨日追いつけなかったのも納得なワケだ 「おい、泉、いた、烏丸だ」 本当だ、少し先で校門を烏丸が通るのが見えた 相変わらず誰とも目を合わせず、ヘッドホンで音楽を聴いているようだ 「なぁ泉、天狗の子って、なんの音楽聴くんだろうな」 「さーね、想像もつかない」 十分後、、、 ホームルーム前の教室はワイワイガヤガヤとうるさいもんだ 慶太が隣の席の烏丸に「おはよう」と声をかけた 相変わらずガヤガヤは絶えないが一瞬、教室のみんなが慶太に注目したのがわかった
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