第六章

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素人の犯罪がここまで上手くいくなんてありえないだろう。 ここに捧げたミユキはともかく、林にそのまま放っておいたマナの死体もいまだに見つかっておらず、目撃証言も出ていないのは出来過ぎている。 暗くなってからの帰宅も親に怪しまれなかった。知らぬ間に帰ってきたからずっと部屋にいたものと思われたらしい。返り血もほんの少しで済んだ。映画やドラマほど盛大に噴き出る訳でもないのだろうが、目立たない箇所に跳ねる程度で済んだのは奇跡的といえる。 「願いが叶う上に証拠隠滅まで出来て一石二鳥ってわけ」 開けっ放しのその中に独り言をよこす。 「マナの時もこうすればよかった。……あ、マナといえば」 最初にここに来た時、たくさん置かれた入れ物を見てこんなことを言っていたっけ。 「『生贄の間』の『主人』からしたら、この入れ物はお皿って事だよねー。っていうか、『主人』って何なんだろうね?旧校舎に人が住んでるわけないしー、生贄をあげるかわりに願いを叶えてくれる……悪魔、みたいな?」 「ちょっと手間はかかるけど、願いを叶えてくれるんだよ。すごくない?神様だったりして」 思い出しながら取手を引いた。 「うーん……どっちも違うと思うなぁ」 呟いてから扉を閉める。キィ、と軋んだ音がした。 「邪魔者を始末してくれて、その後の関係まで保証してくれる。恋のキューピッドってやつよ。きっと」 マナとリョウの距離の近さに不安を感じていた時、他の子やお母さんに相談しても「たかだか中学生の恋愛で、そこまで悩まなくても」と呆れられそうでできなかったのだ。
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