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こんな時間に 乗り方もわからない子供が
地下鉄のホーム入ってゆく姿を、
駅員がアキれ顔で 見送った。
薄暗い地下鉄の、
ダウンタウン行きの プラットホームに
降りたとき
ふと、
初めてオウジに 不安がよぎった。
―― これから ドコに行く?
・・金は どーすんだ?
今朝方 たたき起こされてからというもの、
ずっとイライラに支配されまくって、
気づくヒマもなかった
オウジの心の奥の 黒雲が
ムクムクと、湧き上がる。
――この先どーなるんだ?
・・・オレは
もう一度 歌えんのか・・?
『 いい気にならないことね。
アンタの代りなんて
いくらでも見つけられるのよ 』
冷たく黒いモヤに包まれた オウジの心に、
メギツネ美津子の 言葉が浮かぶ。
『 ステージに立つと声が
出なくなるだなんて・・。
歌うことしか能のない フダツキが、
皮肉なもんだわね? 』
フン、と鼻で嗤って、
美津子は、次にデビューが決まっている
ロック系アイドルグループの
プロフィール写真の、チェックをつづけた。
『役に立たないボーカル一匹、
ナンのために 飼ってると思ってるの?
今アンタを抱えてるのは、
貴章の面目のためよ。
肩書きだけは、
まだウチの 社長なんですもの』
そう言って美津子は、
パープルがかったルージュの唇から
メンソールタバコの煙を
オウジに向かって、吐きつけた。
『 いったい貴章は
こんなロクデナシ小僧のドコを
買ってるのかしら~?
才能なんて、あっても使えなければ
ただの粗大ごみだわ。
・・ああそう、
ゴミ同士で
慰めあってるのかしらねぇ?』
――ナニ言ってやがる
そのゴミ亭主に、未練があんのは オマエだろ・・!
オンナとして 扱われなくなった美津子が、
夫の貴章と オウジの関係を
疑っている事を知っていて、
オウジはわざと、イミ深にふるまった。
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