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グランドセントラルで感じた
ピリピリとした トガった空気は
何処かへ消え、
何かが、
見たこともない形になっていくときの
心躍る 躍動感。
そんな波が、この街には満ちていた。
体中の細胞が
オウジの中で
反応する。
この空気を つかんだら
聴こえてくるのかもしれない。
聴こえなかった音が、
音楽が。
ふいに右手を、伸ばしてみる。
―― んなわけねぇか・・・。
シンガーであり、ソングライターでもある彼は
もう随分、曲が創れずにいた。
答えを確かめることが怖いから。
オウジは 心の耳を閉じ
そっと右手を下ろした。
だが、オウジの中で 何かが小さく、
そして確実に
動き始めている事も、カンジてた。
―― ただ美津子のヒステリーで、
この街に飛ばされたんじゃ
ねぇかもな・・・。
見えない引力が
自分を ココに引っぱり寄せてる。
きっと何かが起きる。
そんな運命的な予感が、
オウジの胸を 波立たせる。
「んん~なわけねぇし・・!」
今度は、声に出してみた。
お目当ての ナイトクラブはみつからない。
寝静まっていそうな
アパートメントが立ち並び、
わずかにある飲食店も シャッターが閉まってる。
酒瓶を抱えたホームレスの男が、
ゴミ箱の横に 寝そべっていた。
――ダイジョブかよ、 あのオヤジ・・・
この寒さの中で、迷ってるヒマはない。
明日は我が身ってコトだよな。
オウジは、
人通りのありそうなエリアへと急いだ。
凍りそうな指先を
ポケットに突っこんだまま、
何ブロックか移動すると、
ようやくまだ、店の灯りがついている通りに出た。
金曜の夜を楽しむ 住人や観光客が、
けっこうな人数 往来してる。
通り一本で、まったくフンイキが違うのが
ダウンタウンのオモシロく、アブナイところだ。
オウジは一軒の
カフェ&バーの看板を見つけた。
ちょうど木製のドアを開けて、
数人の男が 帰っていくところだ。
ドアの隙間から、ジャズの生演奏が聴こえた。
まだ、店を閉める気配はない。
どんなジャンルであろうと
音楽という音楽には 触れたくない心境だが、
この寒さじゃ、しょーがない。
オウジは古びたドアを開け、
店に入っていった。
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