#2 霧のミッドタウン

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その名刺を、 左のポケットから出してみる。 トンネルの中の暗さで よく見えないが、 それは日本のテレビ局の NY支局の名刺で、 所在地とTEL番号、そして ”プロデューサー 井上真由美”  と書かれていた。 『 空港に着いたら   ココに連絡しなさい 』 美津子の甲高い声が、耳元でよみがえる。 『 逃げようなんて思わないことね。  こんなハシタ金で 冬のマンハッタンに 放り出されれば、 ホームレスになって、凍死するだけよ 』 ――チッ 美津子のヤツ、 ケチなマネ しやがって・・! 井上だぁ~?   オレを殴りやがった 中学のセンコーと 同じ名前じゃねえか、 気にいらねぇ! ダ~レが オマエの息のかかった オンナのトコなんか 行くかよっ オウジは名刺を、グシャッと握りつぶして バスの通路に放り投げた。   その時、オウジの  目の前の視界が イッキに開けた。 バスが イーストリバーの地下を抜け、 地上に出たのである。 白やパープル 赤  ブルー。 さまざまな色のネオン。 そびえ立つビル、ビル、ビル。 上部は、どれも霧の中にうもれていて 先端が見えない。 まさに摩天楼だ。 東京の高層ビルとは   スケールのデカさが まるで違う。 オウジは巨大なマンハッタンの内部に いきなり侵入していたのだ。 「うぉおっ・・・!!」 シートにふんぞり返っていたオウジも、 思わず身を乗り出していた。 隣の車線を走る イエローキャブの 赤いテールランプが、 水滴で曇ったバスの窓ガラスに  残像を残しながら 追い越してゆく。 目を丸くして窓の外を見る、 イナカモン丸出しの自分にハッと気づき オウジは思わず 車内の白ブタ野郎を、ふり返った。 彼は長旅の疲れで、眠りについているようだ。 自分のダサダサなトコを 見られずにホッとして、 オウジはゆっくりシートの背にもたれ、 元の姿勢に戻った。 まもなくバスは グランドセントラルステーションに 滑り込んでいった。
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