第1章・けだるい寝起き

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第1章・けだるい寝起き

 善人町、僕の住んでいるこの町はとてもいいところだ。  昼間、ひっきりなしに飛ぶ米軍の戦闘機の轟音と、近くの畑からほのかに匂ってくる肥料の臭いと、この町に昔から住んでいる人たちの僕を見る冷たい視線を除けば。  戦闘機の轟音は次に日本がアメリカに戦争で勝つまで続き、肥料の臭いは近くに住む齢九十になるじいさんが死ぬまで続き、冷たい視線は次の嫌いな新参者がこの町にやって来るまで続くのだそうだ。僕の一つ前にこの町に来た、嫌われ者の長髪のミュージシャンが僕に教えてくれた。 この町の中心に東京ドームにしたら何個分になるのだろうか、広大に広がる団地の森がある。というか、この団地の森そのものがこの町とも言える。そして、その一番南東にある棟の南東の角部屋の最上階が僕の部屋だ。つまり、一番端っこの端っこということだ。  築五十年の2LDK、南の窓からは、この団地群を囲むように生えているうっそうとした森が見え、北の窓からは全く同じ形をしたお馴染の団地の棟が、きれいに規格通り将棋倒しのように等間隔で並んでいるのが見える。     
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