向こう側の君へ

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 僕が恋した女性は今ではテレビの向こう側、全く僕とは違う世界にいた。 「先輩っ何見てるんですか?」  外回りを一緒にしていた会社の後輩が僕に尋ねてくる。 「あれだよ」  そう言って僕は大通りに接し通り行く人々の視線が向けられるビルに設置してあった大型モニターの方を指さす。そのモニターでは巷で今話題の女優、明石すみれが今度出演する映画のプロモーションビデオが放映されていた。 「ああああ~先輩もすみれちゃんのファンだったんですか!ほんとすみれちゃん演技も上手だしスタイルもバッチリだし完璧ですよね。俺、一度で良いから彼女に生で会ってみたいです」 「ふっそうだな俺も会ってみたいよ。じゃ俺はこれで直帰だから帰るな」 「お疲れ様です先輩」  いつもの如く後輩と別れた僕は速い足取りで帰路につく。 「今日もお前のファンだって奴を見つけたよすみれ。君の幸せそうな顔・・・・本当に良かったな夢を叶えることが出来てよ」   帰宅しても自分以外は誰も居ないマンションの一室。  大学を卒業して会社に就職が決まり早五年、未だに僕には彼女と呼べる存在が出来た試しがない。  そんな人生を過ごす僕はビールを飲みながらこの部屋に居ない存在、もう二度と会えない彼女に向けて言葉を綴る。  俺はテレビの電源をつけるとニュース番組が流れていた。  するとニュース番組では芸能ニュースのコーナーに切り替わりキャスターが原稿を読み始める。 「では次のニュースです。週刊報道の記事により女優明石すみれさんの熱愛報道が報じられ世間をあっと言わせました。交際相手と噂されるのは今度公開される予定の恋愛映画にて共演される神楽坂亨さんとのことです。このことについてどう思われますか桝添さん?」  キャスターは隣の席に座っていたコメンテーターの桝添に話を振った。 「いやぁ~お似合いのカップルだと私は思いますよ。と言うか今まで明石さんには恋愛ネタの一つも出ないほど仕事一筋だったので驚きです」  
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