問題は日常的につき

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「うるせェッ!」  そんな罵声(ばせい)と共に、幾つものガラス瓶が割れる音が室内に響き渡った。  常であればそんな雑音など周囲の喧騒に紛れてしまい、誰一人気に留める事など無い。しかし、偶々。そう、偶々訪れた数秒の静寂の中で嫌という程に響き渡ってしまった罵声と甲高い音。  楽し気に酒を(あお)っていた周囲の冒険者達は皆揃って顔を(しか)め、自分たちの気分を害する者共を睨みつけた。 「こんなのッ! こんなの詐欺だろッ! 依頼受けたんなら、最後までやり通すのが当たり前じゃねェのか!?」  そこにはテーブルを壊さんと一定リズムで拳を振るう一人の禿げ上がった男性と、その対面に俯いて腕を組み深々と腰を下ろす雪色の髪を持つ――幼い子供が。  ジョッキを手にしていた周囲の者の中には、その可笑しな構図に目を剥く者が数組存在するが、それを除いた多くの冒険者達は「あぁ、また始まったのか」と溜息交じりに視線を戻す。驚きを(あら)わにする冒険者たちは、そんな様子の周りを見て更に困惑の表情を浮かべている。  徐々に先程までの活気が戻って来たギルド内を冷めた表情で見渡し、暇を持て余すように溜息を吐き出した受付嬢――ビビッド・マクエルは内心「このイベントのお陰で、ベテランかルーキーか見分けられるのよね」とぼやき、未だ怒りの表情で子供を見下ろす男の方へと視線を移した。  既に先程程度の罵声であれば耳を澄まさなければ聞こえないギルド内に、折角の面白イベントを台無しにされたと、又しても憂い気に溜息を吐き出したビビッドは、大きく伸びをして溜まった書類の整理に掛かる。  ここ、王都メルフィストに看板を掲げる冒険者ギルド――〝雷電の獅子(ライオネット)〟は他の冒険者ギルドと比べても問題児を多く抱える事で有名なギルドだ。酒場スペースでの喧嘩は毎日絶えず、公共施設の破壊、依頼品の紛失等々……此れまでの不祥事を上げると切りがない。現在酒場の一角で起きている言い争いも、その中の一つとして有名であり名物とも言える出来事だ。
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