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ギルドでのプチ騒動から二週間程経った。
基本的に働き者であるリオは、暇を見つければ適当に依頼をこなすのが日課となっていたのだが、あの一件以降ギルドには訪れていなかった。とは言っても、あれが原因というわけではない。
――薄暗い廃墟。何十年放置されていたのかは予想もつかない程風化が激しく、周囲の木々に飲み込まれるようにして寂しく聳え立つこの建物は幽夢の館と呼ばれている。別名アンデットホーム。
現在リオはそんな幽夢の館の地下二階を、ひたすら無心で一人歩いていた。
特に雨が降っているわけでも無いのに常に湿気が溜まっており、何処からともなく水滴の垂れる音が響き渡る。そして目には見えない何かが、頻りに自分の身体をすり抜けて行く不思議な感覚。更には地下室とは思えぬ広さを有している造りに、常人であれば竦み上がり失禁しても可笑しくない程この館は異常に満ちていた。実際リオも無心を貫いてはいるものの、顔がいつもより若干青い。
何故彼がここを訪れているのか。それには特に深いわけでも無い理由があった。
遡る事三日前――。
リオには行きつけの書店があった。場所は王都内でも隅の方で、スラム街を進んだ先にあるあまり人の寄り付かない寂れた書店。
しかし、草臥れた外観とは裏腹に取り扱っている書物は大変貴重なものが多く、禁忌に触れると数十年前に増刷を禁止された禁書や、今では無くなってしまった小国の秘蔵書など、普通ではまずお目に掛かれないモノばかり。時偶に何処かの国のお偉いさんが来店している事がある、そんな隠れ家のような店だ。名前をミコトの古書店。
多い時は二日に一回も通っているリオは、今日も散歩がてらミコトの古書店に訪れていた。
「お早う御座いますー」
気の抜けたリオの声が、ドアベルの軽快な音に交じり店内に響き渡った。
木造で出来たミコトの古書店は鼻腔に優しい木の香りと書店独特の紙の香りに包まれており、リオはこの匂いが大好きだった。
後ろ手で扉を閉めたリオは、頬を綻ばせ深呼吸を繰り返す。
「今日も来おったか……相変わらず暇そうじゃのう」
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