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「お母さんはどうしたんだろ」
あの愛情過多で過保護全開の母親が、私のそばを離れるはずがないのに。なにかよっぽどのわけがあって、どこか別の場所にいるんだろうか。
再度お腹が鳴ったので、今度こそ私はベッドから起き上がり、床に足を下ろした。
「うわっ」
思わず悲鳴を漏らす。あるべきはずの抵抗が、その床にはなかった。いつまでも沈んでいく足の裏。低反発加工なのはベッドだけじゃないようだ。改めて部屋中を見渡すと、全てがクリーム色一色だった。壁も、床も、そして驚くべきことにドアまでも。部屋には無駄なものは勿論、必要なものさえなかった。テレビも置時計も掛け時計も、家具も本も雑誌も……何もない。
柔らかいドアは鍵がかかっているわけでもなく、すんなりと開き、私は外へと足を踏み入れた。と、そこにはあるべき抵抗があって、私はちょっとほっとした。普通の木材加工の床だった。
まだ病み上がりの重い体を、引きずるようにして歩く。通路はまっすぐ一本に伸びており、迷子になりようもない。
「誰かいませんか?」
小声で前に向かって呼びかけたにも関わらず、やけに声が響いた。
十メートルほど歩くと、キッチンスペースが見えた。
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