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「看守は言葉遣いが決められてるんだよ。感情の出やすい話し方は罪人に隙を見せることにつながるからって理由で、基本的に統一された口調が定められてる。訛りとかも厳しく直されるし」
「なるほどねえ。しかしユハ、よかったの?」
「何が?」
「いくら下級看守でも公務員には違いない。イヴァンフォーレの公務員は特権の塊みたいなものじゃないか。そんな身分を捨ててまでどうして……」
普通、イヴァンフォーレの公務員といえばなれただけで勝ち組だ。でも、看守だけは違う。あれはイヴァンフォーレの縮図みたいな職業だ。
「下級看守には二種類あるんだよ」
「ふむ?」
「一つは純粋な公務員さ。数年耐えればゆくゆくは上級看守に昇進できる。けどそれは一握り。ほとんどの下級看守は使い捨ての看守補でね。公務員というよりは王の奴隷に近い。軽微な罪を犯す他に生きる術のなかった元罪人だ」
言いながら、看守服の袖を捲り上げる。
左の二の腕に蒼く彫られた罪人の証は、それを看守補身分へ変更した朱墨よりも濃く浮き上がって、結局罪が消えていない。
収監番号だけは看守補登用時に蒼墨で潰してもらったので、ここから直接足がつくことはなさそうだ。
「自由を制限されるくらいなら逃げたほうがいいってこと?」
「ああ。お前の手伝いをしている方が、いくらか楽しそうだったしな」
それだけの理由ではないけれど。
「で、ユハは何をしちゃったの?」
「食うに困ってパンを盗った」
「……それだけ?」
「うん」
「それってどのくらい牢に入るわけ?」
「九十日の労働奉仕だったかな。他の奴らに比べれば可愛い罪状だし、妥当だろ」
「で、そこで模範囚だったから看守になったの?」
「いや、身寄りがない子供は全員強制的に看守補にされる。その方が使い捨てにしやすいからな。健康なうちは国が身分を保障して最低限の衣食住を見てくれるけど、一生大した給料はもらえない。そんでもって、怪我したり病気になったりしたら放り出される」
大抵の看守補は数年のうちに身体を壊してそのまま死ぬ。
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