正義と看守の脱出

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 一部、収監された貴族の世話を焼いて気に入られ、引き抜かれていくこともなくはないが、最近はそもそも貴族が収監されることがほとんどない。 「そうか……てっきり高給取りだと思ってたかってしまった……ごめんよ、お金を持ってるわけじゃないのにこんなに食べて、迷惑だったね」 「金ならあるぞ」 「へ? だって君、大した給料はもらえないってさっき……」  確かに、今の言い方は誤解を招くな。  アストレアに隠し事をしても仕方がないし、先に言っておくか。 「もらえないなら奪うだけよ。さすがに今までは大人しくしてたけど、もう戻ることはないんだから最大限利用させてもらわないと」 「……どういうこと?」 「俺を虐げてきた奴らから、根こそぎいただいてきた」  小銭は重いので主に紙幣。顔の分かる上級看守の財布は大体空にしてきた。まだ数えてはいないが、ざっと見ただけで百万フォーレ以上あるだろう。あと二時間あれば倍もありえたところだが、欲張ってはいけない。  気がかりだった王都物価も、たらふく食って宿代を前払いしたって五万フォーレも使ってない。まだまだ余裕だ。 「……君、そんな技術を持ってたのかい」 「まあな。あー、だから、パンの時はしくじったんだ。元々スリの技術は相当なもんだったんだから、横着せずに財布集めて買えばよかったんだよな。調子に乗って直接物を手に入れようとしたから……」 「ちょっと待って、君ってそんな常習犯だったの?」 「だって、そうでもしないと生きられないだろ」  別に生きなくてもよかったんだが、死にそうになると本能的に生き延びようとしてしまう。人間てのはそういうものだ。  そのせいで捕まって、やりたくもない仕事をさせられて、こいつと旅をする羽目になったので、いいんだか悪いんだか。
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