0人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「君、若いのに達観してるね」
「そうか?」
罪人上がりの下級看守の中には、俺みたいなのが結構いた。隙を見て自由になるために、そこに至るまでの苦労や危険は飲み込む。
一人でなんとか生きなきゃならないという状況にあって、今を耐え抜く以外の選択肢は登場しない。
そういうことを話すのも面白くないだろうと黙り込んでいたら、アストレアが立ち上がった。
「……ごめん、ちょっとトイレ」
「吐くのか?」
「違うよ。消化したものを排出したいだけ」
その言い方もどうかとは思うが、小走りに便所へ向かうのを引き止めるわけにもいかない。
しばらくして、なにやら大きな声がした。
「おい、どうした?」
「なんでもないよ!」
返答の後すぐに戻ってきたアストレアは、なんでもないという割にはやけににやにやしている。
「……なんなんだよ」
「いやいや、さっき初めて自分の姿を見たんだけどね? いやあ、まさかこうなってるとはね」
ああ、ついに気づいてしまったか。
洗面所に鏡でもあったのだろう。
いつかはこの会話をするだろうと予想していたけども、思ったよりかなり早かった。
まあいい。
「まどろっこしいな。言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「いやあ、まさか君の幼い頃の姿になっているとは!」
アストレアは俺の幼少期そっくりの容貌をしていた。厳密に言うと細部は違うのだが、まあ他から見ればただの兄弟だろう。
「いいね、とても可愛いよ」
「いらんことを言うな」
「これって十を少し超えたくらいだろう? まだ声も高いし、今みたいに目つきも悪くないし、女の子と言っても通りそうだね!」
最初のコメントを投稿しよう!