正義と看守の逃走計画

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 イヴァンフォーレで今最も収監率が高い犯罪は宗教関係の詐欺だ。  実在しない神を祀ろうとするだけで蒼墨が入るという、割に合わない商売である。ちなみに最低でも三百日の肉体労働が課される。  どうしてこんなに宗教関係の規制がきついのかというと、それはずばり王が宗教を恐れているからだ。現状で確立されている宗教にまで口を出すことは滅多にしないが、新しい信仰対象が生まれることを強く嫌い、少しでも揺らぎつつある宗教なら強引に潰してしまう。  アストレアは現状で神ではないわけで、そこに信仰を集めようとすれば確実に捕まる。しかも我々は二人ともお尋ね者なので、三百日で済むわけがない。  だからその手はやめておこうと提案すると、案外あっさり引き下がってくれた。 「まあ、神格を示せなくて惨めな思いをするのは嫌だからね」 「神格って、具体的にはどんな力なんだ?」 「んー、分かんない」 「は?」  なくしただのなんだの言っておいて、知らないで済ませるつもりか。 「いやー実はお恥ずかしいことに、神だった頃の記憶がほとんどないんだよね」 「……お前、本当に神だったんだよな?」 「当たり前だろ。これでも、元々は結構綺麗な女神だったんだから」  それは知ってる、と言いそうになって口を噤む。 「しかしそれじゃあ打つ手がないな。他に何か案はないのか?」 「そりゃ、神殿かその代わりになるものがあれば一番いいと思ってるよ」 「昔の神殿は?」 「そんなのとっくになくなってると思うよ。神殿ってのは神の力に比例するから、神格を失くした時点で朽ちていく一方だもん」  しょんぼりしてみせるアストレアだが、俺の方がしょんぼりしたい。  思っていたより八方塞がりに近い。  打てる手がないわけじゃないが、できればもう少しとっておきたかった切り札だった。  まあ、後生大事にとっておいても仕方がない。 「……よし。俺はちょっと買い出しに行ってくるから、お前はゆっくり風呂でも入ってろ」  動き出すなら早い方がいい。  後悔しないためにはそれが一番だ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!