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イヴァンフォーレで今最も収監率が高い犯罪は宗教関係の詐欺だ。
実在しない神を祀ろうとするだけで蒼墨が入るという、割に合わない商売である。ちなみに最低でも三百日の肉体労働が課される。
どうしてこんなに宗教関係の規制がきついのかというと、それはずばり王が宗教を恐れているからだ。現状で確立されている宗教にまで口を出すことは滅多にしないが、新しい信仰対象が生まれることを強く嫌い、少しでも揺らぎつつある宗教なら強引に潰してしまう。
アストレアは現状で神ではないわけで、そこに信仰を集めようとすれば確実に捕まる。しかも我々は二人ともお尋ね者なので、三百日で済むわけがない。
だからその手はやめておこうと提案すると、案外あっさり引き下がってくれた。
「まあ、神格を示せなくて惨めな思いをするのは嫌だからね」
「神格って、具体的にはどんな力なんだ?」
「んー、分かんない」
「は?」
なくしただのなんだの言っておいて、知らないで済ませるつもりか。
「いやー実はお恥ずかしいことに、神だった頃の記憶がほとんどないんだよね」
「……お前、本当に神だったんだよな?」
「当たり前だろ。これでも、元々は結構綺麗な女神だったんだから」
それは知ってる、と言いそうになって口を噤む。
「しかしそれじゃあ打つ手がないな。他に何か案はないのか?」
「そりゃ、神殿かその代わりになるものがあれば一番いいと思ってるよ」
「昔の神殿は?」
「そんなのとっくになくなってると思うよ。神殿ってのは神の力に比例するから、神格を失くした時点で朽ちていく一方だもん」
しょんぼりしてみせるアストレアだが、俺の方がしょんぼりしたい。
思っていたより八方塞がりに近い。
打てる手がないわけじゃないが、できればもう少しとっておきたかった切り札だった。
まあ、後生大事にとっておいても仕方がない。
「……よし。俺はちょっと買い出しに行ってくるから、お前はゆっくり風呂でも入ってろ」
動き出すなら早い方がいい。
後悔しないためにはそれが一番だ。
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