正義と看守の故郷

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 ……と思いながら、念には念を入れた準備をしていたのだけれど甘かった。  初日の夜に王都から出るまではよかった。  三日目には雨に降られた。近くの村に避難して雨宿り。  五日目に遭遇した山賊もどきから逃げて逃げて、当初の予定より遠回りな経路へ変更。  七日目には王の勅令軍が通りすぎるのを岩の陰でひたすら待つという無駄な時間を過ごし、八日目にはまた雨。  九日目に馬が音を上げてしばらく徒歩で動くしかなくなり、目的地に着いたのは出発から十三日後。 「おいアストレア、着いたぞ」 「えっ、ここ?」  アストレアが驚くのも無理はない。  俺が生まれ故郷として示した土地は、ただの廃村と化していた。 「どうも俺も知らない間に村が解散してたらしいな」 「本当にここなわけ? 間違ってない?」 「あってるよ。あそこに湖があるだろ。この村は生活用水を全部あれからもらっててな、ほれ、水路がそこらじゅうに」  空き家の配置も昔のままだ。  住民がどこへ消えたのかは知らないが、白骨死体が見当たらないところからして感染症の流行というわけではなさそうだ。  家財もほとんど持ち出されているし、移住したと見るのが自然か。まあ、この土地で何があったかを知る身からすれば、ごく真っ当な判断だと思う。  馬を引いて村の奥へとどんどん入っていく俺を、アストレアが呼び止めた。 「ちょっと待った」 「なんだ」 「君、没落商家の息子じゃなかったっけ?」 「そうだと断言した覚えはないが?」  納得いってないのが丸わかりの顔だが、気にせず進む。
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