正義と看守の故郷

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 最初に牢で見たときは何も思っちゃいなかった。逃げる算段をつけているときにうっすらと思い出し始めて、名前を聞いて確信した。  図々しくも頼りに来たんだろうと。  それなら、こっちも利用してやろうと。  「ああそうか、レヴィ……神官の名か……」 「その様子じゃ、忘れてたようだな」  大きく息を吸い、ずっとずっと抱えていた怒りを吐き出す。 「お前がここを見捨てたせいで、俺は全てを失った。何が正義の神だ。仕えてやった人間を蔑ろにする神なんて、信仰されなくて当たり前だ。けどな、俺はお前を見捨てない。見捨ててやらない。その代わり責任を取ってもらう。お前が本当に正義の神なら、俺を正義にしてみせろ」  これを誓わせるためにここまで来たと言っても過言じゃない。どんな手を使ってもこいつに償わせる。  揺らいだ正義の責任は、民ではなくて正義本人にあるのだから。民が正義を失ったとき、それを説けなかったのは正義の落ち度なのだから。  しばらく黙っていたアストレアがようやく発したのは、拒絶に近い言葉だった。 「……無理だよ」 「は?」 「無理だよ。言っただろう? 正義は民の心の中の正しさを集結して形成される。こんな世の中じゃ、また神格を取り戻すなんて夢にすぎない」 「勝手なこと言うな。前は地道に信仰を復活させるって言ってただろ」  それに、と俺を遮って続く。 「君の中の正義は幼い日で止まってる。だから本当は最初から怖かった。今の君にはもう正義なんてないのかもしれないって。けど、自分の中に残っている神格の欠片が言うんだ、君なら希望を託せるって。でもそれは、こういうことだったんだね。これは君がまだ幸せだった頃の姿なんだ。今理解したよ。自分が君をただ利用しようとしていた愚かな存在だったこともね」  どうやら未だに勘違いをしているが、俺がそれを説明してやる義理はない。  こっちも冷静さを欠いていた。
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