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「じゃあどうしてくれるんだよ」
「どうにでもすればいい。どうせ狂った世界だ。たとえここで君に殺されようとも、大した問題じゃない」
「大した問題じゃないって、そんなことをお前が勝手に決めるなよ」
お前にとっては大したことなくとも、俺には重大なんだ、言っただろ。
「だって、君のものを奪った償いは、人の身に堕ちた今じゃもうその怒りを受け止めることでしかできないんだもん」
アストレアの目には涙が溜まっていた。
それを見て、なぜかこれ以上責められなくなった。いや、そもそもアストレアを、先祖が数百年延々と仕えてきた神を、責めることはできない。
「もういい、やめろ」
「やめないよ。正義を打ち負かせば、君は間接的に正義になれる。それで手を打ってくれ」
「そんな理屈が通ってたまるか」
「でも実際に君を利用しようとしていたのは認めるしかないんだ。だから」
「黙れ」
ああ、この血が憎い。
裏切れない。裏切ってはいけないと、身体が言葉を引き止めてしまう。
「俺は正義を憎んでいるし、この世の中にも絶望してる。けどな、それでも何の因果か俺の前にお前が現れた。しかも助けてくれと手を伸ばす。もうそんなの、賭けに出るしかないだろう」ああ、もう。銃口を離す。「お前がもっと傲慢だったら、本当に殺してたさ。なんでそんなところだけ優しいんだ。くそ」
右手の銃を投げれば、壁に亀裂が増えた。
ああ、もう。俺の負けだ。
「ユハ……?」
「確認だが、神殿があれば少しは戻りやすくなるんだな?」
「そりゃまあ」
「分かった。……ここはお前の本当の神殿だ。自由に使っていい。神官だって俺でよけりゃ務めてやる。だから、ここからまた始めよう」
「……いいの?」
きょとんとしているアストレアに、俺は手を伸ばす。
「その代わり、俺を一人にしないでくれるか。また身近な人間がいなくなるのは嫌なんだ」
今度は俺のわがままも聞いてくれ。
正義の元女神は、優しく手を握ってくれた。
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