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そろそろ死んでしまっているのではないかと思いつつも、暗い牢の奥にいる正義の姿は見えないので確かめようがない。いや、鍵は預かっているので中に入って見ることはできるけども、そこまでできる職権が与えられているか分からない。
その代わりと言ってはなんだが、囁くように声をかけてみる。
「ここの食事は、さほど不味くはないですよ。……下級看守もほぼ同じものを食わされているくらいですからね」
食事差し入れ用の小さな扉を開錠して、運んできたときのまま置かれているトレイを手にとる。
冷めたスープと固いパン、萎びた野菜に申し訳程度の魚片。下級看守の食事はこれに牛乳とハムが増える。
……不味くはないが美味くもない。まあ、空腹を抱えて物乞いするよりは幾分かマシという程度である。
上部階層へ戻る途中で魚を口に入れ、パンを胸ポケットに隠す。下げた食事は廃棄処分になるだけだ。それなら食べ盛りの俺の腹に入ってくれた方がよほどいい。
これが、俺がこのくそ面倒な仕事を引き受けた唯一の理由なんだから。
たった一回しくじっただけでこんな職業に縛られているなんて。できることなら逃げてしまいたい。でもそんな自由は俺にはない。
囚人を世話する俺もまた囚人みたいなもの。
虐げられて、なんとか生き永らえているような、屍同然の感覚。
毎日毎日同じことを繰り返して、どこかで逃げられないかと狙っている。
もちろん現実はそんなに甘くはなく、俺は運命を恨む。
ただまあ、したたかに生きていれば時々はこういう当たりの仕事も手に届くわけだ。他の奴よりも少し飯が多く食えるというだけで幸せを感じるようになるなんて、どれだけ底に近いかという話だが。
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