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さっき牢で交わした握手は、予想外の事態を引き起こした。
俺が触れた瞬間に手は血の気を取り戻し、見えなかった姿が現れ、何より驚いたのはそれがあまりにも見慣れた容姿であったこと。
あの時は俺の目がおかしいのかと思ったが、月明かりの下で見ても正義の外見に変化はない。
ふむ。
「どうかした?」
「いや、なにも。さっさとここを離れよう。検問でも敷かれたら厄介だ」
「どこを目指すんだ?」
「とりあえず王都中心部へ出る。まさか堂々と王都に出るなんて思わないだろうから、意外と安全だろうよ」
話しながら歩き出す。あの街は俺が捕まる前に拠点にしていたところだ。良くも悪くも知っていることは多い。
ひとまずそこで宿を見つけて、旅支度を整えてから本格的に旅程に入る。そういう算段であることを告げれば、アストレアは嬉しそうに言う。
「ということは、ご飯も食べられる?」
「は? お前飯食うのかよ」
「食べるに決まってるだろう!」
「ずっと何も食わなかったろ」
「あれは事情があったの! もう本当に餓死すると思ったんだから!」
「分かったからでかい声を出すな」
夜道に響くと黙らせながら、それなら先に露店で食料を買い込んでから宿に入るべきだなと予定を組み替える。
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