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ザルト監獄を囲む樹海さえ抜ければすぐに王都中心部へでてしまうから、まだぎりぎり店の閉まらないうちに用は済むだろう。俺も久々に美味いものが食いたくなってきた。
問題は、途中で通過せざるをえない監獄の検閲所だが、これだけ大量の上級看守からの委任状があれば抜けられるだろう。
その読み通り、特に怪しまれることもなく検問を終えられた。アストレアが少し怪訝な目で見られていた気がしないこともないが、俺の口から適当に事情を言っておいたので大丈夫だろう。どうせこいつらも看守補。わざわざ面倒な照会作業をしたりはしない。
「そういえば、一つ気になることがあるんだが」
「なにかな?」
「牢での握手には、どういう意味があったんだ?」
これからは否が応でも運命共同体である。得体の知れなさは少しでも解消しておきたい。
「あれはね、君の中の正義の姿を借りるための儀式だよ」
思ったよりもすんなり説明を始めたアストレアは、得意げな顔で両腕を広げ、楽しそうに話を進める。
「信じられないだろうけど、正義は元々かなり位の高い神でね。それが信仰を失って神の地位を追われ、人に堕ちて更に存在を薄めて……正直なところ、君に出会ってなかったら明日にでも消えてしまうほどだった。で、君の中の正義の形を借りてどうにか実体化しているわけさ」
その話はもちろん信じたくないんだが、自分の目を信じるのならその説をある程度肯定するしかなくなってしまう。
「だから、今の姿は君が信じる正義に関係する誰かに似ているはずだよ?」
少しだけ。少しだけ動揺した。
目の前のこれが俺の正義だというのなら、俺は過去を精算できていないも同然だ。
多少は成長したと思っていたが、まだまだ子供のままらしい。
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