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アストレアに投影された自分の弱さにうんざりしながら、ひたすら森を抜けていく。時折背後で銃声が聞こえるが、あれは上級看守の飾り銃だ。
殺傷能力の低い弾に、衝撃緩和のことを一切考えていない機構、何より装飾品が多すぎて重いのなんの。今俺の胸ポケットに入っている下級看守用廉価銃の方がいくらか使い物になる。
「ひい、ドンパチ始まったみたいだね」
「気にするな。あんなのでそうそう人死には出ない」
「詳しいね」
それよりも、そろそろ見えてきた街の明かりに気を向けてほしい。
「アストレア、街に出る前に顔隠せ」
「ん?」
「王都じゃ夜道で顔を晒すのは商売人だけで、客や住人はフードで隠すのが普通なんだよ。ほら、お前の分」
どさくさに紛れて盗ってきたのを被せてやって、俺も自分のケープから帽子部分を引っ張り出す。
イヴァンフォーレの主要都市で流行り出したこの習慣は、貴族のお遊びから始まった。昼間に堂々と遊べない身分の人間が夜の街に繰り出す時、自分だけ顔を隠すと逆に貴族だと名乗っているようなものになってしまう。だからわざと庶民にもフード着用を流行らせて、自分たちが判別できないようにした……というのが通説だ。
真偽はどうでもいいが、お互い目立つ髪色の俺たちにはこの習慣が大変ありがたい。怪しまれることなく繁華街をうろつける。
堂々と王都の大通りを抜けて露店街に立ち入った途端、アストレアが異様な食欲を発揮し始めた。
とりあえず食べ歩きのできる串焼きソーセージを買ってやり、変わりパンから氷菓子までとにかく色んなものを欲しがる中からいくつか選んで購入。
「おい、デザートに苺の砂糖漬けとか食うか?」
「食べる!」
それでも満足いかないらしく、追加で香辛料漬けの炙り肉や生チーズ、魚卵なんかの少々高級なものまで買ってしまった。アストレアの好みだけ聞いているのも癪だったので、俺は酒をこっそり三本ほど。それらを詰めた紙袋を抱えて数軒の宿を回って宿泊先を決めた。
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