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正義と看守の出会い
大国、イヴァンフォーレ。
この王国の五百年続く栄華は大陸のほぼ全土を飲み込む力となり、一部の貴族が最新技術であるところの機関車やら電話やらを使って自由を楽しむ一方で、底辺の暮らしを送るものはその日の食い扶持にも困り文字も読めぬような格差に苦しんだ。
そんな国でも、法の裁きだけは平等の意義を失うことなく、永らくは王族も庶民も同じ法で縛られていた。けれど、それすらも揺らぎ始め、あらゆるものの定義が曖昧なものと成り果て、ついには絶対であったはずの正義までもがある時あやまちを犯した。
そのあやまちは、民の目には正義のわがままと映り、公平であることを忘れた正義は敵だ、罰せられるべきだと湧いた。正義はそれに一切反論しなかった。
形だけの裁判の後、王国で最も堅牢とされるザルト監獄へ収監された正義は言葉を発さず、十日を過ぎても水さえ口にせず、看守の間でも気味が悪いと噂が流れた。この手の話は時々あって、それを嫌がるお偉方は下へ下へと仕事を押し付ける。
正義が繋がれたのはザルト監獄の中でも深層部にあり、本来なら上級看守しか出入りのできない区域だったのだが、例によって管理を担う看守が次々に辞退したため、二十五日目には最低階級の看守補にまで役が回ってきた。
看守補の中にも更に序列があって、嫌な仕事は下級の者に押し付けられる。
その結果、収監から三十日目には正義の世話は俺の仕事になった。
遥か上の階級の人間から順繰りに回され束ねられた十数枚の委任状をポケットに詰めて最深層へ。あらゆる階層の面倒な牢を押し付けられているせいで、そこらじゅうの通行許可状と鍵が看守服を重くする。
とはいえさすがに最深層に出入りするのは初めてで、ほんの少しの高揚感を覚える。まあ、これからは手のつけられることのない食事を下げに日に何度も果てしない階段を降りていくことになるので、じきに慣れてしまうのだろうが。
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