正義と看守の脱出

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正義と看守の脱出

 その夜、ザルト監獄は稀に見る大混乱に陥った。  ほぼ全ての牢が開錠され、千五百を越える数の囚人が一斉に脱走を図ったからだ。  俺は特別悪いことをしたわけじゃない。非常隔壁の固定金具から螺子を外し、各階層の一番身軽そうな奴の牢に鍵束を放り込んだだけ。ついでに下級看守の居住区域につながる扉は穀物袋で塞いできたが、まあそれでも大したことじゃない。  明確に禁じられたことは何も破っちゃいないんだから。  これに懲りたら俺みたいな下っ端看守に鍵やら委任状やら渡さないことだな。  あれだけ色々やっておけば、一晩とは言わずともある程度は時間が稼げるだろう。  自由を奪われた三年分の恨みつらみはまだまだ解消できないが、久しぶりに暴れられて多少はすっきりした。  看守服から飾りボタンを毟り取り、ただでさえ数のない中からさらに厳選した荷物を背負って待ち合わせの場所へ。  看守でも一部しか知らない内部通路を通り、誰とも遭遇することなく外へ出る。  秋風に落ち葉が舞う中、既に到着している共犯者を見つけた。 「待たせたな」 「やあ、看守くん……と呼ぶのは都合が悪いかな?」 「ユハだ。ユハ・レヴィ、元看守」 「アストレア、元正義。よろしく頼むよ」  その名を聞いて、今度は躊躇うことなく手を握り返す。  これは通過点に過ぎないのだと確信したから。 「いい度胸だな。こちらこそよろしく」
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