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綿貫(新人)
「だーかーら、どうしてそう余計な仕事を増やしてくるんだよ」
「す、すみません」
予想はしていたけれど、やっぱり怒られてしまった。狭い車内に響く声に首をすくめながら、先輩の言葉を聞く。
「今そんなことしてる時間があるか、考えろって何度も言ってるだろ」
「はい……」
「相手が困ってるからって、そう考えなしに助けようとするなよ。相手が悪いやつだったらどうするんだ。100万貸してくれって言われたら貸すのかよ!」
「すみません……」
「次の打ち合わせの予定があるって分かってるだろ。そっちを待たせることになるかもしれないだろ。つーか待たせることになるんだよ、間違いなく」
はあ、と鳥谷先輩はため息をついた。手をスーツの胸ポケットに伸ばすが、そこにタバコを入れていないことを思い出して、苛立たしげにハンドルを叩いた。もともと先輩はヘビースモーカーなのだが、僕がタバコがだめだというので、同行するときだけは禁煙してくれているのだ。タバコ代が浮いていいわ、もしかしたらタバコやめられるかもな、などと軽口を叩いていたのがちょうど1ヶ月前。多分禁煙は全く成功していなくて、外回りから戻ると真っ先に喫煙スペースに閉じこもり20分は戻ってこない。屋根すらない屋外だけど、どんな悪天候でも必ず一服していく。これだけストレスをためているのだから仕方ない。原因はすべて僕だ。
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