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月は見ていた
「今日はお姫さまと一緒じゃないのかい?」
ゴルフ練習場で顔見知りの会員に声をかけられ、私は肩をすくめた。
「誘ったんだけどね。今日は料理教室だそうだよ」
「お、なに、花嫁修業? ついに結婚?」
「そうだね、そろそろ、かな」
私の恋人は、会員たちの憧れの「姫」だった。若く、美しく、スタイルもよく、知的。老いも若きもみんなが彼女を落とそうと躍起になった。
彼女は「かぐや姫」のように希少なものばかりを欲しがり、それをクリアした私と付き合うことになった。付き合いだして、私は一層彼女に夢中になった。この完璧な女性を絶対に逃したくない。
私はロマンティックな日を選んで彼女にプロポーズすることにした。
「明日は中秋の名月だね。お月見をしにいこう」
「でも、その日はお天気がよくないらしいけど」
「ネットによると、名古屋が降水確率0%だよ」
「そうなんだ!」
彼女がパッと笑顔になった。
そして、9月24日。私は彼女と名古屋までドライブデートを楽しんだ。
郊外の小高い丘は人もおらず、穴場だ。キレイに見える月に、彼女が歓声をあげる。
よし、指輪を――と上着のポケットに入れた小箱に触れたとき、彼女が不思議な行動を取った。
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