第一幕:【博多】代行屋と流浪な猫/1話

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 瞬間、あたしはくるりと振り返りざまに飛び上がって蹴りを入れた。下から突き上げるように。警官はよろめきながら仰け反った。惜しい。でもこの隙きに逃げるしかない。  酔っぱらいのおっさんたちを掻き分け、きらびやかなドレスを着たキャバ嬢の脇をすり抜け、勧誘に精を出すホストたちを飛び越え、中央通りを走る。  これだけ人がいるんだから撒けるはず。逃げ足には自信があるんだ。田舎もん舐めんなよ。  そうタカをくくって通りをまっすぐ走り、道路を突っ切って飲み屋とホテルと駐車場を見送れば、夜の暗みが突如に視界を埋める。一気に静かな寂しい道に変わった。  その道沿いには、ビルの隙間にねじ込んだような朱い鳥居がある。この小さな神社に隠れれば、あたしの存在を消してくれるだろう。息を切らして鳥居の中へ飛び込んだ。  でも…… 「おいおい、いかんやろぉ。人ん家(、、、)に勝手に入ったら」 「え――?」  振り返った瞬間、あたしの視界は黒に沈む――  ***  そこで記憶が途切れてしまった。  はて? それからどうなったのか分からない。 「まぁ、手荒なマネして悪かったなぁとは思ってますよ」  帽子男はその風貌とは裏腹にゆるい敬語を使う。そして、部屋の隅にあった(服を引っ掛けたままで見えなかった)冷蔵庫を開ける。炭酸水のペットボトルを出して飲んだ。自分だけ。     
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