第一幕:【博多】代行屋と流浪な猫/1話

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「俺だって頼まれんと、こんな仕事しませんし」 「あんたの仕事って、人さらいか何か?」  言葉の脈をつなげば、あたしはどうもこの帽子男に誘拐されたんだと容易に考えつく。すると、男は「あはは」と呆れの笑いをあげた。 「この平成の時代に『人さらい』って。漫画じゃあるまいし」  違うのか。 「ちょこっと眠らしただけです」 「んで、ここに連れ込んだわけだ……それさ、誘拐じゃね?」  すると男はしばらく逡巡して「あー、ほんとだぁ」とのんきに笑った。  はぁーあ……あたし、誘拐されたのかぁ……まさかの事態に頭を抱える。 「でも、どっちみち行くアテないんでしょ、君」  炭酸水を冷蔵庫にしまいながら男は言う。途端にあたしは口ごもる。 「女の子が、あげんとこ()ったらいかんって。そりゃ補導されますよって」 「あんた、さては補導の現場にもいたのか」  警官に捕まりかけたとこを見ていたということは、あたしを狙っての犯行ということじゃないか。  しかし、その考えはあっさりと否定された。 「あぁ、あの警官、実は俺です」  男は笑いを堪えながら言った。なんそれ。意味分からん……でも、まぁ、一つだけ分かることがある。     
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