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「俺だって頼まれんと、こんな仕事しませんし」
「あんたの仕事って、人さらいか何か?」
言葉の脈をつなげば、あたしはどうもこの帽子男に誘拐されたんだと容易に考えつく。すると、男は「あはは」と呆れの笑いをあげた。
「この平成の時代に『人さらい』って。漫画じゃあるまいし」
違うのか。
「ちょこっと眠らしただけです」
「んで、ここに連れ込んだわけだ……それさ、誘拐じゃね?」
すると男はしばらく逡巡して「あー、ほんとだぁ」とのんきに笑った。
はぁーあ……あたし、誘拐されたのかぁ……まさかの事態に頭を抱える。
「でも、どっちみち行くアテないんでしょ、君」
炭酸水を冷蔵庫にしまいながら男は言う。途端にあたしは口ごもる。
「女の子が、あげんとこ居ったらいかんって。そりゃ補導されますよって」
「あんた、さては補導の現場にもいたのか」
警官に捕まりかけたとこを見ていたということは、あたしを狙っての犯行ということじゃないか。
しかし、その考えはあっさりと否定された。
「あぁ、あの警官、実は俺です」
男は笑いを堪えながら言った。なんそれ。意味分からん……でも、まぁ、一つだけ分かることがある。
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