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糸島の、ど田舎から転がり込んで早数ヶ月。道を覚えるくらいこの都会に慣れたはず。
でも、まさかこんな珍事に出くわそうとは思わないし、しかもこの状況に誰も見向きしないって。どこの都会も他人には冷たいんだろうな。
清水原は道路を渡ると、ひたすら道をまっすぐ歩いていく。川に沿って。ここは確か博多川。色街から離れれば、景色は冷たいビルの色と薄れた下町に変わっていく。
「橋向こうが須崎町の入り口。この辺、覚えとったらいいと思いますよ」
なんか教えてくるけど無視しよう。
ぷらん、と腕をヤツの背中の前で垂らして、あたしは遠ざかる太陽を睨んだ。
光を浴びる商業施設、博多リバレインの近くにまた小さな神社がうっすら見えたけど、今は神様を見る気になれないので逸らしておく。
「お、おった。ダイコクさん」
神様を見たくないと言った矢先にそれだ。清水原は少し、足を速めた。
博多川は緩やかな流れで、橋下には昼休みなのかスーツを着た人や、作業服の人が階段に座ってご飯を食べている。
そのどこにも「ダイコクさん」らしきものはない。でも、清水原は何か見つけたように橋下に手を振った。
「おーい、ダイコクさん」
呼んでいるけど、誰一人として反応を返すものはない。
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