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神の声が心を掴み、捻り潰されるような痛みが胸の内を走った。同時に、のたうつ何かに気がつく。どうやら夜叉を一つ、除き損ねたらしい。
謂れのない罪を着せられ、すべてを奪われた。
無である。
何も無い。妻も子も、みなが散った。それを許さずに、ただ命運のままに従おうとするも、抗うように染みを広げる怨――
すべての理には、表裏が付きまとう。対の顔を持つ。どれだけの徳人であろうとも、国つくりの神であろうとも、表裏を併せ持つものだ。
「――ならば、この醜さも私のものか」
やがて、彼は受け入れる。
瞬間、言の葉が舞い降りてきた。ひらひらと風に乗り、落ちるそれを取った。
彼の祈りと怨を聞いた神の名がそこに記されてある。
その名は紙から離れれば雷をつくりだす。青々とした天に光の亀裂が走る。山頂が風を起こす。
彼の願いを具現した激しい雷鳴が、世界を震わせた――
*
*
*
「――そして彼は神様の仲間になり、自分を陥れた者をぶっ殺しましたとさ」
冷たい床に座る艾年の男は、言葉とは裏腹に軽快な声音で語り終えた。
膝の上に座る愛らしい少女が大きな瞳で彼を見上げる。
「どうやってぶっ殺したの?」
「そりゃあ、思いっきり雷をバーンってね。落としてやったさ」
「そしたら死んじゃったの?」
「そう、死んじゃったの」
「スッキリした?」
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