第一幕:【博多】代行屋と流浪な猫/1話

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「………」  互いに距離を取ったままで沈黙。あたしはこの男の言動に不穏を覚えていた。ただただ睨んでおく。 「覚えてない、ですかね……昨日、ほら、夜に」  遠慮がちに訊いてくる。威嚇した野良猫を相手にするように。  ただ、あたしは野良だとしても猫じゃないので、思考を巡らせることにした。  えーと……あたしはどうしてここにいるのか。まだ頭がくらっとするけど、意識もはっきりしてきたしなんとか思い出せそうだ。  *** 「もう明日から来なくていいよ」と、回転寿司屋の店長に言われ、つまみ出されて、鼻先でスタッフルームの扉を閉められたとこから始めよう。  あたしは不器用だけど裏方でも表でも仕事ならなんだってやる。今どき珍しいイエスマンの姿勢でいるというのに、何故かバイトが続けられない。  まぁ、そこはいいとして。問題は金だ。その日のねぐらが見つからないというのが面倒。友達に連絡しても「今日は彼氏くるから無理」とか言われるし。     
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