幸せのあり方

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幸せのあり方

「そんなこともあったっけ……」  仕事が終わり、最寄り駅から歩きながら、ふと元夫のことを思い出した。 『男は別名で保存、女は上書き保存』  とはよく言ったもので。  私はすでに今のダンナと、彼との間に生まれた子供達とで新しい暮らしをしている。  元夫のことは既に上書きされ、サンドイッチ騒動がなければ思い出しもしなかった。  比較してはいけないと思いつつ。  元夫のことを考えれば。  今のダンナはゴミ捨ても部屋から回収するところからやってくれるし。  掃除も、食器洗いも、洗濯物を干すのも畳むのも私の疲れ具合を見て率先してやってくれる。  私を思い遣って家事をしてくれる。  優しい旦那様じゃないか。  サンドイッチを捨てられたくらいで文句を言ったらバチが当たるというものだ。 「ふ~」  深く溜め息をついて、大きく息を吸い込む。  二、三回繰り返して、玄関の扉を開けた。 「……ただいま」 「お帰り」  上の子を短期スイミング教室に連れ行く為、午後から半日有休を取ったダンナが出迎えてくれた。  リビングから子供達のきゃあきゃあ遊ぶ声も聞こえる。 --いいお父さんしてるじゃない。  きっと私が帰って来るまで子供達と遊んでいてくれたのだろう。  玄関の入口で立ったまま、罰が悪そうにダンナが後ろ頭を掻いて口を開く。 「あのさ……今日は本当にごめん」  まだ私が怒ってると思ったのか、開口一番にそう謝られた。 「もう怒ってないよ」  私も笑顔で答える。 「子供達のお迎えありがとう」  靴を脱いで、玄関に上がり、ダンナの耳元に口を近付ける。 「いつもゴミ捨てしてくれてありがとうね」  そしてハグをした。  捨て魔だけど。  今のダンナだから『幸せ』なのだから--。
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